ジュリアン有生の「徒然なるページ」

2001年4月8日 

 第20回 お見合い体験談

ジュリアンは、ダーリンとの結婚前に、実は「お見合い」なるものを経験したことがある。一応お仲人さんチックな人有りで。20代の頃はお見合いなんて絶対嫌だ、と思い父や母が話を持ってきても、写真も釣書も見ず、丁重にお断りしていたのだが、30代に入り、母も段々顔色が変わってきていたし、自分自身もいささかの焦りも出てきていた矢先のお話だったので、会って見る事にした。

さてさて、期待と不安が入り混じる心中で、待ち合わせの場所に到着し、紹介者の方ががお互いを紹介し、少しして「じゃあ、ここからはお二人でお話してね。」と去っていき、二人で話し出したら、もう即いやになった。第一印象から外見的にもピンとこなかったが、職業がお医者様という事のせいか、何だかお高くとまっている。二人になって開口一番、「あなたの周囲に医者はいますか?」と聞いてきた。「いいえ」と答えると、「僕は、医者とは、神がつくった人間の『修理』ができる、神にその事を許された特別な、限りなく神に近い人間だと思ってるんですよ。だから、僕と結婚しても、僕とあなたとは同じ人間ではない、と僕は思っています」等とヌケヌケと言う。頃合をみて、さっさと帰ろうと思っていたら、その神様に近い人(?)は自分の生まれ育った家庭環境等について話し出した。(大阪で生まれたそうで、当たり前のことだが、エルサレムで生まれたのではなかった。キャー、これっていや〜な皮肉??)

「厳しい母親で、兄弟が3人なので、お誕生日ケーキは誰の時もなかった。クリスマスだけが一年で唯一、我が家でケーキが食べられる日だった。でも、家族は5人。72度。わかりますか?丸いケーキを5つに分けるには、72度に切らないとダメなんですよ。で、切る人が一番小さく切れたのを食べないといけないルールになってて、僕はいつも切る役でした。」等と話し出した。途端、走って自分の母の顔を見たくなった。そして、思いっきり母を抱きしめたい気持ちになった。母はジュリアンにとって母であり、今ではもう親友のような親子関係で、いつの頃からかジュリアンは母を「よっちゃん」と呼ぶようになった。ジュリアンは、子供の頃、さほど優等生ではなかった。が、よっちゃんは、テストの日の朝は必ず、早くに起きて近所のパン屋さんで菓子パンとコーヒー牛乳を買ってきてくれた。それに、お誕生日は、兄の時も、ジュリアンの時も、欠かさず大きなバースデーケーキを買ってくれた。少しでも大きく切れたのは、いつもジュリアンが食べていた。お見合い相手のお医者さまは、学校ではいつも学年で一番の成績だったと言う。なのに、ケーキは年に1度、72度なのだ。ジュリアンのような大した成績を取らない子に、テストのたび、菓子パンとコーヒー牛乳を買ってきてくれていたよっちゃんは、実はどんなにか「がんばって欲しい!」とそういう思いをこめてパン屋さんに走っていたのかと思うと、何だか急によっちゃんを抱きしめたくなった。そして「ごめんね!今日まで気付かずに。ジュリアンのように出来の悪い子を諦めもせず可愛がってくれてありがとう」と伝えたくなった。

母親の愛情表現や躾には、色々なかたちがあると思うし、どれがいいとか悪いとか、一概には言えないが、ジュリアンは、よっちゃんに産んでもらって、育ててもらって幸せだったと思う。

 お見合い相手のお医者様は、それからも暫く自分の育った家庭環境や今の職場環境について話していたが、どの話を聞いていてもよっちゃんが恋しくなる話ばかりだった。

結局このお見合いは結婚したくなるどころか、それまでよりいっそ、自分の実家の快適さ、よっちゃんの暖かさを痛感できるキッカケとなる出来事としてのみ、ジュリアンの心の中に残った。お見合いは、帰宅後即お仲人さんに丁重にお断りしたのだが、まあ、でも、いい勉強にはなった。

 近頃お見合いって流行らないみたいだけど、色んな人を知るという面では結構価値有りなのかも。





 

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